手帳
ねこのパン屋さんは文房具が大好きだ。
「愛してさえいるわ」とも云っていた。
ねこのパン屋さんは、堅表紙の小さな手帳を愛用している。
いついかなるときでも持ち歩いているみたいだ。
以前、
エプロンのポケットからのぞいているのを見かけたことがある。
あれはたぶん、モレスキン。
シンプルな手帳とシンプルな生活。
年末だからと手帳を新調する習慣はないらしい。
しばしば粉まみれになってしまうという手帳は、
もしかしたらパンのにおいがするのかもしれない。
little writing による little write
ねこのパン屋さんが、金魚鉢を見つめている。
金魚鉢のなかには、二匹の金魚。
ねこのパン屋さんは、ほおづえをついて、
ゆらめき踊る金魚を目で追っている。
アーモンドの形をした目を、
ふだんの倍くらい、大きく見開いて。
すると、
ねこのパン屋さんの視線に反応したかのように、
二匹の金魚は、ぽっ、と燃え上がる。
水のなかでゆらめく小さな炎、ふたつ。
熱くないのか、驚いたようすも見せず、
金魚たちはぱくりぱくりと口を動かしつづけている。
二匹をつつむ青い炎は、
紫に、オレンジに、
ふるえながら色をかえていく。
ガラス細工のような燃焼。
ねこのパン屋さんは、そのようすを、
ほおづえをついたまま、じっと見つめつづけている。